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Presented by Nishishi via Movable Type. Last Updated: 2023/07/17. 21:26:07.

益税ではなく「消費税は取っていないのよ」という話

インボイス制度の問題、というか、そもそも「消費税は取っていないのよ」という話

一般の消費者には全く関係ないので、イマイチ話題になりにくいですが、我々フリーランスの収入が軒並み10%減るんじゃないか……という、なかなか困った制度「インボイス制度」が今年の10月から始まってしまいます。インボイス制度とは何か? ……という点についてはもう世の中に解説が山ほどありますので、適当にググってそれらをご参照頂きたいのですが(つまりここでは何も説明しませんが)、1点だけ語っておきたいことがあります。

「免税事業者が受け取った(=納税されない)消費税」のことを「益税である」と説明する表現にものすごく抵抗というか違和感がありまして、そうではないのよ……という点を書いておきたくなったので書きます。

以下はその話です。

免税事業者というのがある

とりあえずここで重要なのは「免税事業者」です。
インボイス制度そのものの説明は省いても、免税事業者の説明はしておく方が良いと思うので簡単に説明しておきます。フリーランス(個人事業主)という労働形態で働いている人々も、たいていは免税事業者です。

なんか細かい例外とか規定とかがあったかもしれませんが、ざっくり言えば、免税事業者とは『前年までの年間売上が1000万円に満たない事業者』のことです。
なので、フリーランス(個人事業主)だけでなく、株式会社等の法人であっても、小規模な会社なら免税事業者に該当するでしょう。
フリーランスでもめちゃくちゃ儲かっている人は(=年間1000万円以上の売り上げがある場合は)免税事業者ではなく課税事業者になりますけども、そこまで儲かっているなら節税のためにも法人化しているでしょうから、「フリーランスならたいてい免税事業者でもある」と言っても良いのではないか、と思います。

で、その免税事業者というのは何なのかという話ですが...↓

消費税を納めなくて良いのが「免税」事業者

普通、物を買ったりサービスを買ったりすれば消費税を払います。
その消費税は、販売店なりサービス提供元なりに対して、価格に上乗せする形で支払いますね。
販売店なりサービス提供元なりは、(購入者から支払時に預かった)消費税を年1回まとめて国に納めます(納税)。

※正確には、購入者が払った消費税の合計をそのまま納税するわけではなくて、「購入者が払った消費税額」から「自分が仕入れの際に他社に払った消費税額」を引いた差額分だけを納税するわけですが。(参考:財務省の消費税解説ページ

で、免税事業者というのは、その消費税を国に収めなくて良い事業者のことです。
「年間の売り上げが1000万円に満たないくらい儲かっていないのなら、消費税の納税はせんでええよ」という制度ですね。
フリーランスの場合で言えば、「仕事の報酬等として依頼主から受け取った消費税」は、納税せずにそのままもらっといて良いわけです。

……と説明すると、「消費税分だけ余分に懐に入れられて丸得なんかい!」と思われるでしょうけども、そういう話ではないんです。
ここからが本題です。

「消費税分ほど得をしている」のではなくて、「そもそも消費税を取っていない」(事実上は)

免税事業者であるフリーランスというのは、「消費税を払わずに懐に入れている」のではなくて、そもそも「消費税を取っていない」のです。事実上は。
まあこれは、あくまでも私の場合は、という話ですけども。

インボイス制度の問題を語るときに、よく見かける(フリーランスではない人々に思われていそうな)誤解が1点ありまして、それが「消費税を今まで納めずに得をしてきたなら、それを払うのは当然だろ」という指摘です。
これは違うのです。

そうではなく、「消費税を納める義務がないから、消費税は取っていない」というのが実態です。

とはいえ、いくら事業者側に消費税の納税が免除されていても、(切手販売や土地売買や保険医療などのような)非課税取引ではないのですから、形式上「消費税を取らない(=消費税0%)」ということにはできません。なので、請求書には「税込」と書いて、まるで価格に消費税が含まれているかのように記載して見積書なり請求書なりを発行しています。

▼考え方の例

例えば、ある何らかの製作作業を打診されたときに、「その内容なら10万円でできるな……」と思ったとしましょう。
その場合は、

  • ×「10万円に消費税10%を加えた11万円を提示」するのではなくて、
  • 「税込10万円として提示」しているのです。

だって、免税事業者なので消費税を納める必要がないのですからね。税込10万円として受け取っても、その10万円全額をそのまま報酬として得られるわけですから。あえて消費税を上乗せする必要はありません。
要するに、消費税は事実上取っていないのですけども、形式上取らないわけにはいかないので、便宜的に「価格」=「税込額」として提示しているのです。

なので、この状況で「本来の消費税を国に納めなさい」と言われてしまうと、この「報酬10万円のうちの10%を政府に納めなければならなくなる」ので、自分の収入が10%も減ってしまうのです。

▼10%の価格差で受注できない可能性だってあるのだから

「そういう請求の仕方をしていたのが悪い」と言われればそれまでなんですが、消費税の納税義務がない免税事業者なのだからそうなるのは当然です。

だって、『提示額が10万円なら受注できるかもしれないが、11万円だったら断られるかもしれない』というようなケースは当然あるわけです。
いや「1万円で変わるか?」と思われるかもしれませんが、ここで示した額はあくまでも例ですからね。50万円規模の案件だったら10%で5万円増しになるわけですし、100万円の案件だったら110万円になるわけです。その5万円や10万円の差で、他社(他者)に競り負けるとか先方の予算をオーバーするとかしてしまって受注できなくなる可能性もあるでしょう。

なので、消費税については考慮せずに、「自分が引き受けられる額」をそのまま「提示額(見積額)」にしているのです。

それを政府がインボイス制度によって「消費税を払え」と言ってきているので、消費税分(つまり10%)ほど値上げできるか、その消費税分を先方が払ってくれない限りは、フリーランス側の持ち出しになってしまうわけです。
つまり、収入が10%減るということですね。

※厳密には(先程も説明しましたが)「購入者が払った消費税額」から「自分が仕入れの際に他社に払った消費税額」を引いた分だけを納税するので、仕入れがある業種なら10%も減るとは限りませんが。ただ、Web製作みたいな「仕入れがない」サービス業の場合は、差し引ける消費税額が存在しませんから、まるまる10%減ります。

収入が10%減るケース/減らないケース

もちろん、収入が減らないパターンもあります。報酬額を10%値上げできるか(下記Ⓑ)、10%分の負担を取引先に求められれば(下記Ⓒ)ですが。

フリーランス側の採れる選択肢は下記の4通りかな、と思います。(違うかもしれませんが。)

  • インボイス(適格請求書)を発行できるよう登録して、収入の10%減を受け入れる。(=現状の報酬額から消費税分を捻出して納税する)
  • インボイス(適格請求書)を発行できるよう登録して、取引先には10%の値上げを要求する。(=消費税分を値上げして、それを納税する)
  • インボイス(適格請求書)を発行せずに、取引先に10%分の負担を願う。(=取引先企業が納税しなければならない額が増える)
  • インボイス(適格請求書)を発行せずに、報酬額の10%値下げを受け入れる。(=取引先企業の納税額が増加する分だけ、値引きに応じる)

は自分の収入が減るパターン、は取引先の収入が減るパターンです。

▼自分が負担するか、自分に発注してくれた取引先に負担を頼むか

インボイス制度によって、誰かが10%の消費税相当額を新たに納税しなければならなくなるわけですが、「誰が納税するか?」には2通りあります。

上記のは、自分で消費税を納税するパターンです。
値上げできれば収入は変わりませんが()、値上げできなければ(納税する消費税の額だけ)収入が減ります()。
ただ、値上げできて収入額が変わらずに済む場合でも、(今まで必要なかった)納税の事務作業の負担は増えますけども……。_(┐「ε:)_

上記のは、消費税を納税しなくて済む免税事業者のままで居る(今までと同じ)パターンです。この場合、消費税分は、取引先企業が余分に納税することになります。(詳しい説明はインボイス制度の説明をググって読んで欲しいのですが、先方は「先方が納税する消費税額から、こちらの価格に含まれる消費税額を差し引けなくなる」ために、納税額が余分に増えるのです。)
で、取引先企業だっていきなり10%分の負担が増えるのは嫌がることもあるでしょう。その場合には、値下げの要求を受け入れざるを得ない場合もあります()。それが10%なのか(両者の負担を折半した)5%で済むか等は、相手次第ですけども。

世の中、1割もの値上げをいきなり受け入れてくれる企業ばかりではないと思います。たぶん。

益税(=消費税分ほど得をしていた)というのは誤解

というわけで、「今まで消費税分を懐に入れていたんでしょ? 納税せずに利益にしていたんでしょ?」というのは誤解なんだ、という話でした。

たぶん、雇われて労働する形態の方々の場合、給与額は「向こうから提示されるもの」だという認識があるのかも知れず、その場合には上記のような誤解が起きるのではないでしょうかね。「10万円を提示されたら消費税1万円が付加されて11万円もらってるんでしょ?」のような感じで。そうじゃないのよ、という話がしたかったのでした。
自分の報酬額は自分で提示するわけですから。(もちろん先方から「この額でいかが?」と打診があることももちろんありますけども。それでも最終的に合意する額は、自分の中にある「請けても良い額」であって、それが先方が支払う総額(税込額)なわけです。)

これ、かなりめちゃくちゃな制度ではないでしょうかね……?
いきなり、最大で収入の10%が減らされるわけですから。

※厳密には、「減るには減るが10%までは減らさずに済ませる方法」というのも何かあったような気がしますが、それでも減ることには違いないわけです。あと、「最初の数年間だけは10%ではなくもっと低くて良い」のような経過措置みたいな制度もあったと思いますが、それはあくまでも一時的な措置であって「最終的には10%になる」という点に変わりはないと認識しています。

▼収入が1割減る上に、納税手続き関連の手間も増える

もしかしたら「たった10%?」と思われるかもしれませんが、ご自分の給料が1割カットされることをご想像下さい。
というか、もうちょっと正確に(正確かどうかは分かりませんけども)雰囲気を示すと、

あなたの給料には今までずっと10%のホゲホゲ税に相当する額が含まれていました。でもあなたはそんなに儲けていないので、今までは納税の義務を免除されていました。でもその免除措置をやめることにしたので、今後は年1回、給料の10%分をホゲホゲ税として納税しなさい。

……と言われているような感じですかね?^^;
で、そういった背後を知らない一般人な方々から「元々払うべき税金だったのだから、10%納税するのは当然だろ?」と言われている、というような。

元々余分でも何でもなく、完全に「自分の報酬」だった金額から新たに10%分の金を取られる上に、納税手続きの手間も加わる感じです。
そんな背景で、「今までは納税していなかったんだから、本来の納税をするのは当然だろ?」みたいに言われてしまうと、「それは違う」と誤解を解いておきたくなったので書いてみました。

その10%分の額を、フリーランス(等の免税事業者)自身か、もしくはフリーランス等に仕事を依頼している企業か、そのどちらかから取ろう、というのが今回の制度だと認識しています。
そりゃ反対するでしょう……!?

反対したところで、もう決まっているので2023年10月から始まってしまうわけですけども。_(┐「ε:)_

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にしし(西村文宏)

にししでございます。本書いたり記事書いたりしてます。あと萌えたり。著書5冊発売中です(Web製作系4冊+小説1冊)。著書や記事は「西村文宏」名義。記事は主にAll Aboutで連載。本の最新刊は2011年3月に発売されたライトノベルでございますよ。

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